「結果的に安倍元首相が死んでも仕方ないという思いで銃を撃ちました」
2022年7月8日、奈良市にある奈良西警察署。山上徹也容疑者(42)の逮捕直後の言い分を記す弁解録取書が作成されたのは、同日正午過ぎのことだった。
その約30分前の午前11時31分、約3キロ離れた近鉄大和西大寺駅前で2度の銃声が響いた。2日後に投開票される参院選の応援演説中だった安倍晋三元首相の背後から、山上容疑者は手製の銃を発砲してその場で現行犯逮捕されていた。
刑事事件の容疑者には、逮捕後ただちに弁解の機会が与えられる。奈良西署に連行された山上容疑者は、取り調べを担当した同署巡査部長に容疑を認めたうえで「ただ……」と続けた。
「安倍元首相ではなく、統一教会のトップ、韓鶴子(ハンハクチャ)総裁を撃ちたかった。でも、コロナで日本に来ないので、統一教会と深い関わりのある安倍元首相を撃ちました」
弁解録取書が作成されたのは、銃撃からわずか30分後。警察はこの時点で、教団への恨みから安倍元首相を襲ったという犯行動機を把握したのだった。
さらにその日の夕方までの取り調べで、山上容疑者は安倍元首相との「深い関わり」についても詳しく説明していく。「もともと統一教会を日本に引き込んだのは、岸信介元首相だ。ただ、すでに死んでいるので、その孫の安倍元首相を狙った」。教団友好団体のイベントに安倍元首相がビデオメッセージを送ったことも知っていたという。
教団を恨む原因は、教団の信者になった母親の高額献金で一家の生活が苦しくなったことだった。こうした供述は一貫し、ぶれることがなかった。
安倍元首相が銃撃され、死亡した事件から8日で半年。山上容疑者の生い立ちをたどりながら、心の奥深くに流れていたものを探った連載「深流」の続編として、事件が警察内部でどう受け止められ、政治や「宗教2世」にどんな影響をもたらしたのかを追う。
取り調べと並行し、警察内部…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル